介護関連の仕事をしていると、実に多くの方に出会います。特に介護保険サービスを利用している人は、日常生活に何らかの支援を要する方であるとも言えますから、銀行や支払い等の日常的な各種手続きに困っているという声は多いのです。頼れる家族がいれば大きな問題にはなりませんが、家族と離れて暮らしていたり、疎遠であったりというのはよくあることです。ホームヘルパーに銀行等からの預貯金引き出しをお願いしようと思っても、トラブル防止のため引き受けることは難しいでしょう。

認知症?寝たきり?とんでもない!自分はまだまだしっかりしている。でも...

...如何ですか?これから先、あなたを助けてくれる「誰か」の顔が思い浮かびますか?

このような場合、第三者と財産管理に関する委任契約を締結すると、あなたの不安はとても軽くなると思います。財産管理委任契約とは、財産の管理や保存をはじめ、生活に必要な事務権限を第三者に委任することで、自分に代わって手続きをお願いできる委任契約です。これはあくまで民法上の契約ですので、あなたの意思で解約することも可能です。

財産管理委任契約に含まれる一般的な内容は次の通りとなります。

  • 財産の管理や保存

    不動産や預貯金などの管理・保存に関することをお願いできます。処分行為については重要な判断が伴いますので、委任内容には含まない方が良いでしょう。その都度検討されることをお勧めします。
  • 銀行等の金融機関における手続き

    銀行等への預け入れや払い戻しなど、あの面倒な手続きをお任せすることができます。身体が不自由な方はこれで安心ですね。
  • 収入の受領や費用の支払い

    家賃や年金などの収入受領や、家賃や施設利用料などの定期的な支払いについても代理権を与えることができます。
  • 生活に必要な送金や物品の購入など

    介護保険では日常生活に関係のない買い物は支援できませんので、この代理権付与によって「痒いところに手が届く」支援が可能となります。
  • 介護保険サービスの利用契約や医療費の支払い

    介護保険サービスの利用契約についても代理権を与えることができる他、要介護認定の審査請求についても委任することができます。まさにあなたの生活全般をサポートしていく役割を担うのです。
  • 死後の処理に関する手続き

    あなたがお亡くなりになった時の葬儀や納骨、その費用や供養料の支払いについても、事前の取り決めがあれば委任の効力は存続します(判例)。ただし、遺産分配や遺言執行者の指定は遺言書の役目となります。

当事務所における財産管理委任契約

では、どのような人にお願いしたら良いでしょうか。銀行等の手続きは、たとえ家族であっても委任状が必要となりますので、家族と委任契約を締結することもひとつの方法です。家族や知人など、もし安心してお任せできる人が見当たらない場合は、ぜひ当事務所をご指名ください。

当事務所は、介護保険制度をはじめとする生活法務の専門家です。単なる事務的な手続き代行だけではなく、生活全般に対する幅広いアドバイスを提供することができます。また、財産管理委任契約の場合は、あなたに判断能力が十分あるということが前提ですので、事務手続きの代行については、その都度あなたのご意向を確認しながら丁寧に進めます。通帳や印鑑を預かりっぱなしにするなどの心配はありませんのでご安心ください。

なお、財産管理委任契約が必要な方は、いずれ認知症等になった場合の不安をお持ちの方が多いのも実情です。当事務所では、任意後見契約とセットで公正証書にしておくことをお勧めしています。


認知症になったら...と言われても全く想像できないかも知れません。むしろ多くの方は、「まさか自分がなる訳ないよ」と思っているものです。しかし、認知症は誰でもなる可能性がある「病気」なのです。生命保険をかけるのと同じように、たとえ認知症になったとしても不安なく生活できる準備をしておくことが望ましいと言えます。

認知症や精神障害など、精神上の障害によって判断能力が不十分となった場合、成年後見制度を活用することができます。成年後見制度とは、家庭裁判所の審判によって選任された成年後見人等が、あなたに代わって財産の管理や身上監護(施設入所の契約や福祉サービスの利用契約など)を行ったり、あなた自身が不利な契約をしてしまった場合に取消すことができるなど、あなたの命と権利を守るための制度です。

ここで留意しなければならないのは、成年後見人等は自ら選ぶのではなく、家庭裁判所が選任するということです。申立て時に候補者を記入することもできますが、候補者をそのまま選任するかどうかも家庭裁判所が判断します。そうです。場合によっては弁護士や司法書士、社会福祉士など、今まで面識のない第三者が選任されることもあり得るということです。選任された後見人等が「いい人」だったら安心ですが、後見人も人間ですから、あなたと性格が合わなかったり、あなたの意思が充分伝わらなかったり...という話を耳にすることがあります。

さらに知っておきたいのは、一度選任された後見人は容易には解任できないということです。後見人は家庭裁判所の慎重な判断によって選任されている訳ですから、不正行為や著しい不行跡がない場合は家庭裁判所も解任することはないでしょう。「馬が合わない」とか「ちょっといじわるだ」という理由での解任は、現実的に難しいと思います。たとえ認知症になったとしても、もし後見人と相性が悪ければ当然不快に感じるものです。あなたがもし認知症になったら、誰があなたの後見人になるのでしょうか...。

成年後見制度には、大きく分けて法定後見と任意後見という二種類の制度があります。法定後見は判断能力が不十分になった時に家庭裁判所へ申立てる制度、そして任意後見は、元気なうちに自らの意思で後見人を決めておく制度です。

任意後見を利用する場合は、任意後見契約(公正証書)によって予め任意後見人と代理権の内容を決めておきます。もし判断能力が不十分になって成年後見制度の利用が必要になったら、あなたの意思を尊重するという意味で、任意後見が優先されることになるのです。また、あくまでも契約ですから、契約内容の発効前であれば、あなたの意思だけで解約することも可能です。

任意後見契約の効力が生じるのは、契約締結の時ではありません。あなたの判断能力が不十分になった時に、申立てによって家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時に効力を生じます。契約で任意に後見人を決めていても、実際には家庭裁判所から監督人が選任され、任意後見人を監督することになるのです。自分の選んだ人が後見人となって、しかもその人に対して家庭裁判所が監督人を付けてくれるのですから、二重の意味で安心ですね。

任意後見契約には、契約から発効までの時間的経過の差異によって、3つの形態に分けることができます。

  • 即効型

    既にあなたの意思能力に低下が見られるような場合において、法定後見による保護よりも任意後見による保護を選ぶ際に利用されます。この場合は、契約締結後すぐに任意後見監督人の選任申立てが行われます。
  • 移行型

    財産管理委任契約等、既に何らかの代理契約に基づく代理人として、あなたのために代理権を行使している人がいる場合、判断能力が不十分になった時点で任意後見契約に移行する契約形態です。
  • 将来型

    最も多くみられる契約形態です。充分に判断能力がある間は見守りや定期連絡を行い、判断能力が不十分になった時点で任意後見を開始することになります。開始まで何年も経過することもありますし、結局任意後見は開始しなかったということも多いです。

ただ、留意しなければならないポイントがあります。法定後見と任意後見の大きな違いのひとつとして、取消権の有無という問題があるのです。任意後見は代理権の付与が目的なので、任意後見人に取消権はありません。そのため、本人が不利益となる契約をしてしまった場合の契約解除は、クーリング・オフをはじめとした消費者保護制度で行うことになります。ですから、任意後見契約を第三者と締結する場合は、あなたの生活を守る法律的な知識があるかどうかも参考にされると良いと思います。

人はいずれ必ず死を迎えますが、その間に何があるかは誰にも予測ができません。でも、自分の将来は自分で決めたい。そのような気持ちを持たれる人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。あなたがもし認知症になったら...。これからの生活を安心して送るために、ぜひ一度考えてみてください。

任意後見契約は、家族、信頼できる第三者など、あなたが認知症になった時に安心してお任せできる人がいれば、その方に予めお願いしておくということが良いでしょう。しかし、中には家族だからこそ任せられない...という人がいるのも今のご時世。法律や社会福祉の専門職である第三者に依頼すると考えた場合、どんな人にお任せしたらあなたは安心ですか?

当事務所は、認知症の人の権利擁護活動に長年携わってきた、認知症の人に対する支援のプロです。そして、生活トラブルから市民を守る生活法務のプロでもあります。法律と権利擁護という双方の視点から、あなたの生活を力強くサポートします。財産管理委任契約や見守り契約とセットのご依頼であれば、将来に対する安心感は更に増すことでしょう。


...これはあくまでも一例ですが、このように、既に精神上の障害によって判断能力が不十分となった人を保護するのが成年後見制度(法定後見)です。任意後見と違い、家庭裁判所に後見等開始の審判を申立てることで支援が開始されます。もし身近にこのような方がいらっしゃる場合は、大きな被害に遭われる前に、公的機関や専門家へ相談されることをお勧めします。

任意後見とは違い、法定後見には「成年後見」「保佐」「補助」という3つの類型があります。支援を要する人の判断能力がどの程度なのかによって、対象となる類型が分かれるのです。それぞれ成年後見人等の権限に違いがありますので、申立ての際には、どのような保護が必要なのかという視点も踏まえて検討されると良いでしょう。

成年後見類型の場合、保護を受ける側の人を「成年被後見人」、家庭裁判所で選任された保護する側の人を「成年後見人」と呼びます 。それぞれ、保護を受ける側の視点から、各類型の特徴を整理します。

  • 成年被後見人

    精神上の障害によって、判断能力を欠く常況にある人です。
    成年被後見人は判断能力を常に欠いている状況なので、強力な保護が必要です。そのため、成年被後見人の法律行為は未成年者と同様に、原則として取消すことができます。その他にも、成年後見人には追認権・代理権等が付与されます。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、取消権の例外として取消すことはできません。
  • 被保佐人

    精神上の障害によって、判断能力が著しく不十分である人です。
    被保佐人には著しく不十分ながらも意思能力はありますので、原則として単独で法律行為を行うことができます。しかし、本人の利益を害する可能性の高い事項(法律で定められた一定の重要事項)については、家庭裁判所に選任された保佐人の同意がない場合に限り 、取消すことができます。原則として保佐人に代理権はありませんが、被保佐人の申立てまたは同意があれば、個別の審判によって代理権の付与が可能となります。
  • 被補助人

    精神上の障害によって、判断能力が不十分である人です。
    被補助人には不十分ながらも意思能力はありますので、被保佐人と同様に原則として単独で法律行為を行うことが可能です。ただし、 補助類型の場合、補助開始の審判申立てを行う際は、本人の同意が必要となります。また、審判時には特定の法律行為に対して補助人の同意権・代理権付与をすることになりますが、どの法律行為に同意権・代理権を与えるかは自ら決めることができます。もちろん、同意権が付与された法律行為を被補助人自ら行った場合は、補助人の同意がない場合に限り、取消すことができます。

法定後見の利用を検討する場合、既に対象となる方の判断能力が低下していたり、時には大きな損害が生じていたりすることがあります。

しかし、後見開始の審判を申立てたとしても、実際に審判が確定するまでには数ヶ月の期間を要するのです。このような場合は、後見開始の審判申立てとともに、審判前の保全処分申立てをすることができます。いずれにしても、緊急を要する場合であれば、早めに公的機関や専門家へご相談ください。

当事務所では、区市町村や社会福祉士会と連携しながら、成年後見制度に関する相談や申立ての支援を行っています。生活に関連する法務と権利擁護の専門家として、速やかに成年後見制度が利用できるようサポートします。

提供できないサービスについて

当事務所で財産管理委任契約、任意後見契約、成年後見制度の各種サービスをご利用の方には、当webサイト内「介護保険制度」で紹介している介護保険、居宅介護支援サービスを提供することができません。利益相反関係になる可能性があることから、トラブルを未然に回避するための方針です。ご理解くださいますようお願いします。

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